僕らは今日もスープを零す
ほんものだぞ。
村の英雄ダダダは皆の前にその塊を置いた。
ダ=イコン。
島中央にそびえる霊峰ハタケ。
その頂上に百年一度咲く、巨大花の雌しべだ。
ダダダはまたも功を成した。
きっと六人目の妻を得ることだろう。
その日は宴が催された。
妻候補のノノノが島唯一の家畜ニーワ・トリィの灰汁を差し出す。
ダダダはそれを飲み干す。
生き物を殺し、煮たスープの一口目には凄まじい怨念と命の塊が宿るという。
恨みの毒と生きたかった残像の最も鮮烈なものを英雄は得る。
(ここで、『ほんの少し、スープは零れる』)
そうして英雄は霊的な階層をまた一つ上がる。
候補通りノノノはダダダの妻となった。十四歳であった。
五十を超えてダダダはまだ灰汁をすする。
英雄であり続ける。
六十八人目の子供が明後日には生まれる。
ダ=イコンは尽きかけている。
霊峰にまた登らねばならない。
これまでに出会ったことが無い獣にダダダは出会う。
咲き誇るダ=イコンの花の下、ダダダは獣の腹に収まる。
英雄を無くして村は少しずつ活気を失っていくだろう。
千年後、満開のダ=イコン。
人間の気配はどこにも無い。
ダダダが出会った獣は人間の頭蓋骨を茹でている。
そいつらも僕らと同じようにスープを零し、
いつか違う獣にすっかり食べられてしまうのを待っている。