ドワーフのスープ
The dwarven soup
ホビットの冒険を映画館で観た日のことだった。
か弱いホビットのおうちに傍若無人なドワーフたちがやってきて、
貯蓄しておいた食料をもりもり食べたシーンが僕の食欲を支配していた。
うちには、パンもチーズも無い。
丸かじりできるようなリンゴすら無かった。
冷蔵庫にはたくさんの根菜。
いいじゃないか、根菜。地下の野菜。ドワーフの野菜って感じだ。
そうして、僕はドワーフとなった。
僕は支配された食欲に、支配され、ドワーフとなって、
カイジルシ鋼製の包丁を手に取ったのだった。
調理(切断)
生粋のドワーフであるところの僕は、短冊切りの意味するところを知らない。
さいの目切りが何であるかの教育を受けていない。
ハンマーの叩き方は沢山知っている。
包丁の使い方は2つしか知らない。
(1)いちどだけ、ふりおろす
にんじん、ごぼう、これはお前のぶん、こっちは俺のぶん。
取りぶんを明確にするのが包丁の第一の目的である。
僕と愛する妻のぶんを明確にするのが目的である。
愛は迷わない。いちどだけ、ふりおろす。
マッシュルームに金属はいらない。
手づかみで決める。
こっりは僕のぶん、そっちが君のぶん。
(2)たくさん、ふりおろす
なんという切り方かをドワーフたちは考えたことがない。
たくさん振り下ろす。それだけ。
地下に出来る野菜たちの一部にはそうして細かくしてガスを抜かないと、
ドワーフたち悪酔いさせるものがあるのだ。
たまねぎもその一つで、だから、ドワーフはたくさん、ふりおろす。
調理(焼成)
ドワーフたちの精気を保つのは火であり、炎である。
炎の味のしない食べ物をドワーフは好まない。
また、火はたまねぎの毒素をまろやかな甘みに変える。
焼き目が大事だ。燃える前の木の色。炎を生む樹木の色。
薪色の焦げ目がつくまでベーコンを熱する。
調理(加圧)
そうして、下ごしらえができた材料を鍋に入れて行く。
魔法処置が施されたビタクラフト銀製の鍋は短時間で野菜をごちそうに変える。
材料をぶちこんだら、水をひたひたになるまで足す。
このあたり、だいぶ魔法が切れてくる。
俺は俺が岡山在住のただのおっさんであることに気がつきはじめる。
ので、コンソメスープを適量足して下さい。
ちょっと薄味かね?くらいの量。
沸騰して圧力鍋が完全に加圧が開始されてから10分くらい弱火でコトコト煮込む。
10分経ったら、火を止めてさらに10分以上待つ。
適度に冷めたら、蓋を開けて、味見をする。
足りないようならコンソメか塩を足す。
味が整ったら、再度、蓋をして、加圧された状態で3分コトコト。
完成
で、完成。
あたたいうちに、盛りつける。
ひげはすっかりと抜け落ちて、背は伸びて、
ただの腹の空かせたおっさんがおたまを振る。
ドボゥ。
できあがり。
いただきます
めでたしめでたし